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ここは東京の近郊にある、響香さんのマンションだ。
状況の把握できていない僕の手を引っ張り、何も言わずに電車に乗せてここまで連れて来てくれた。
普通の思考回路なら僕は当然着いていかなかっただろうけど、状況が状況だったし。それに、不思議とこの人は信用できるきがしたのだ。
「ふぅ」
響香さんの部屋からは懐かしい匂いがして、少し落ち着けた。
一人暮らしをするにはやや大きすぎるこのマンションで、彼女は現在少なからずひとりで住んでいるようだ。
「質問いいですか、音砂さん」
タオルで頭を擦りながら僕から話を切り出す。
「あら」
彼女は意外そうに、片方の眉を動かした。
「呼び捨てでいいと、私は言ったはずだけれど?」
「初対面の人を呼び捨てになんてしませんよ。目上の人に敬意を払うのは当然ですし」
「そう」
彼女はもう1度コーヒーを口に含んで、カップをことりとテーブルに置いた。白い陶器の液体が波立つ。
「そうね、あなたはそういう人だものね。いいわ、好きに呼んでくれて。それで質問というのは何かしら?」
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