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「では、率直にお聞きします」
「ええ、私の答えられる範囲内ならば」
「あなたは何者なんですか?」
外の雨足が強まったのか、静まり返った空間で窓がカタカタと揺れた。
「何者も何も、さっき自己紹介は済ませたはずだけれど」
音砂さんは、つまらなそうにマグカップの縁をなぞる。今更そんな質問をするの?
「音砂 響香、2014年現在で19歳、性別は女、血液はAB型。S大の2年生。生まれも育ちも福島県出身。現在は東京近郊のマンションに一人暮らし。週4日のバイトと親からの仕送りで生活中。彼氏は未だなし、性経験もなし。趣味はそうね、人間観察と小説執筆。といった所かしら?」
「聞きたいのはそういうんじゃないんですよ」
頭を拭いていたタオルを、僕は肩にかける。
「音砂さんは僕があの時間のあの場所に現れて、しかも僕が4年前の人間だと予め知っていた風だった」
大きな疑問はそこだ。
「僕は何故タイムスリップをしてしまったのか、どうやったら元いたところに帰れるのか。そんなのは明日にでも探し始めればいい。ここでひとりで考えたって結論は出ないでしょう。しかしそれ以上に僕にとって不可解なのがあなたの存在だ」
テーブルの下、僕は膝の上で汗ばむ拳をひっそりと握った。
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