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音砂さんは今日一番の微笑みを僕に向けた。悪巧みが成功した子供のような、そんな無邪気な悪意を孕んだ微笑みを。
「一体何なんだ、あなたは」
水滴とも汗とも分からない一滴の雫が、僕の頬を伝って顎へと流れた。
「そうね。いたって普通の人間なのだけれど、強いて言うならば」
あなたの世界を創った創造主、とでも。
「ふざけないで下さい」
気味の悪さよりも、怒りの感情の方がふつふつと僕の中で煮えたぎっていた。
「僕だけならまだしも、なぜ夕凪のことまで知っているんです」
「言ったでしょう?あなたのことは何でも知っていると」
「なら教えてくださいよ」
らしくもなく声を張り上げ、僕は声を荒げた。
「どうして僕をここに呼んだんですか。元の時間に戻るには僕はどうしたらいいんですか。仕組んだのは全部あなたなんでしょ?」
僕は飛び跳ねるように椅子から立ち上がった。温くなったコーヒーが、飛沫を上げて飛び出る。
「残念ながら、私には答えられないわ」
首を左右に振って、響香さんは拒絶する。
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