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「来たな」
「遅くなって申し訳ありませんでした。
お話がなるなら手短にお願いします」
エントラスがパーティー会場になり、
グラスを手に俺等を待っていたのは父と
何度か会った事がある石田父に石田母、
一番上の石田鷹虎、長女の石田永久、
次男の石田杜矢、末っ子の衛に秘書
らしき人達。
「忙しいのに申し訳ない。
この度、永久と衛が婚約しましてね」
衛が婚約!?
「古き頃よりお世話になっている椎野家に
一言ご報告をと思いまして」
頭の中が真っ白。
衛を見ても目を反らされ、その先には
可愛いご令嬢が腕を絡めて笑っている。
「おめでとうございます。
永久嬢、そして衛様も」
「ありがとう。
僕もやっとお姫様になれるんだ。
勿論式には来てくれるんだろ?」
俺も言わなきゃいけない。
「時間を調節させて頂き、必ず出席
させて頂きます」
おめでとうって、
幸せになってねって、
「俺の方は式までは早々挙げる予定は
無いが、その時は来てくれ」
「勿論。最高の花束を持参させて頂きます」
顔を上げて、とびきりの笑顔で、
「僕の時も頼むよ」
「では、ブーケはこちらで用意させて
頂きます」
「うん!!楽しみにしてるぞ!!」
こんな一方的な片想いは何れ終わる。
それが少し早かっただけだ。
「海斗?どうした?」
永久の顔が滲んで見えたのが恥ずかしくて
何も言えないまま走って逃げた。
来慣れた場所なだけに、迷路みたいな
園庭の真ん中に位置する噴水がある
場所で声を殺して涙を落とす。
気持ちを伝えてはない。
俺が一方的に言い寄って居座ってただけ。
追い出された本当の理由がまさかの失恋を
突きつけられて終わりを迎えるなんて
思いもしなかった。
またいつもの様に仕事を探せば、
またいつもの様に一緒に居られるなんて
どこにもそんな保証はないと言うのに、
それは所詮……自分の思い込み……。
「衛……」
「何だ?」
息を切らしネクタイを緩めている衛は
昔からこの庭を苦手で、また自分家で
迷子になっていたと思うと笑みが溢れた。
「また迷子か?」
「うるせぇ!!こんな所に逃げるお前が悪い」
「って言っても、ここはお前んちだぞ?」
「それより何で逃げた!!」
照れ隠しか、顔が赤い。
「逃げたかったから」
「俺に言う事はないのか?」
追いかけてきてまで祝いの言葉を
言わせる気か……。
小さくため息をつき涙を拭い笑顔を見せた。
「御結婚おめでとう御座います。
末永く御幸せに」
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