2人が本棚に入れています
本棚に追加
手を胸に当て、敬意を表するお辞儀をすると
さっきより一層険しくなった衛。
「本心か?」
「勿論。綺麗なご令嬢じゃないか」
噴水の縁を歩いていると、同じ幅で隣を
歩いて来る。
「ふらふらしているのが横に居るより
ずぅっと良い」
精一杯の強がりだけど言わないよりマシ、
どうせならこっぴどく貶してくれたら
もっと楽なんだろうけど、
「海斗は仕事をする気はないのか?」
立ち止まられると何故か俺も止まってしまい、
「あ、あるよ。海二の会社で働こうかな
って思ってる。大事な会議前にセットする
場所を作るらしいし」
そう言えば、まだ望みがある様な気がした。
「二言は無いな」
「勿論」
「分かった。じゃそれを報告しに行こうか」
誰に?何を?
聞きたい事はまだまだあったけど、手を
差し出されたから縁から降りて先を歩いた。
「エントラスに戻れば良いだろ?」
「ま、待て!!」
手を捕られて後ろに傾き腕の中に収まった。
「また迷子にさせる気か」
あ、そこなのね。
「分かった。一緒に行こう」
戻った時には、俺が永久嬢に失恋のショックで
立ち去ったとの噂で持ちきりだった。
そういう事にしたのは海二だと気づくのに
然程時間は掛からなくて苦笑。
「お父様、お話があります」
衛はおじさんを連れて何処かに行ったし、
海二は父さんと一緒に挨拶回りに忙しそうで、
結局誰に報告するべきなのか謎のまま、
1人部屋の隅でグラスを傾けた。
「お一人ですか?」
「えぇ……まぁ……」
紫のドレスを身に纏まったキャラメル色の
綺麗なお嬢様。
「もし宜しければ、一曲いかがですか?」
「勿論喜んで」
これと言ってやる事が見つからず、
一曲ぐらいならと手を差し出して躍ると
曲が終わる度に違うご令嬢が頭を下げて
手を重ねてくる。
初めは笑顔だったものの、躍り続ける事
7曲目、既に足が悲鳴をあげていた。
「あっ……」
「え?」
急に後ろに傾くご令嬢の腰を抱くように
手を伸ばし自分の方へ引くと、ヒールの
踵が足の甲にとどめを指した。
一瞬力が抜けそうになるが何とか横抱きに
支えるとご令嬢も表情を歪めている。
「ごめんなさい。足大丈夫?」
「大丈夫。ちゃんと捕まってて下さいね」
急いで医務室にしているであろう部屋に
赴き、扉を開けた。
「どうかなさいましたか?」
白衣を着た使用人の方がいらっしゃり、
「彼女が足を挫いたみたいなので、
お願いできますか?」
「どうぞ」
最初のコメントを投稿しよう!