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「懐かしいですね。
精霊としてではなくてその名を呼ばれるのは」
微笑んだシリウスは、そのまま空を見上げる。
そこに、もはや暗雲はない。
すでに一日は終わりを告げ、太陽は沈み、月と星々が煌めく銀色の世界。
暗いのに、冥くはない。
不思議な明るさと優しさがそこにはある。
「念話で貴方が私にコンタクトをとってきた時は驚いたわ。
既に死んだはずの古の英雄のお仲間から連絡があるなんて、思ってもいなかったから」
「古の英雄、貴方は大陸の真実を良く調べているのですね。彼の事も、当時の仲間の事も、歴史書にも史実にもほとんど残していないはずなのに」
「えぇ、色々大変だったけどね。
古の英雄、彼の名前は一般的にユリシーズとされるも、それは偽名。他に名前があったってことも。
でも、全部じゃない。
むしろ、ほとんど分からない。だから、教えてくれるかしら?」
真剣な眼差しのキルケ。
それも当然か。何故なら……。
(それを聞きたいがために、エッダのヴァルキリーと指導者にケンカ売って、あんたをあのお嬢様から離れる隙を作って、ノワール達を眠らせる手伝いしたんだから。
喜怒哀楽の怒が一番隙が出来るって、そうかもしれないけど、私、危なすぎる橋渡ってんだから。
色々話してもらわないと、割りにあわないわよ)
そう、キルケはシリウスがアストレアから離れる隙を作るために、あえて挑発行為を続けていた。
その代償が、二人を敵に回すこと。
何か代価がなければ、わざわざそんなことはしない。
彼女自身、人から外れた存在とはいえ、好んで敵を作る必要はないのだから。
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