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ある日、勇者リヒトは旅支度をしていた。
魔王シエルは何も聞かない。
引き留めることさえしなかった。
「おい」
リヒトが城から旅立とうとした日、シエルは漸くリヒトに声をかけた。
リヒトの顔がぱああと輝く。
わかりやすく行動していたのだがシエルは全ての行動を無視していたのだ。
ずっとそばにいると約束したのだから引き留めてしかるべきだろう。
「魔方陣を展開してやる。
行き先を強く願え」
そう言いながらシエルはリヒトに小さな箱を差し出した。
「弁当と笛が入っている。
笛を吹けば私に聞こえるから迎えや助けが必要な時に使うといい」
リヒトはあっけにとられた。
シエルはリヒトが必ず帰ってくると疑う事さえしなかったから。
リヒトは思わずシエルを抱きしめた。
「一緒に行きましょう」
「断る」
「即答!?」
考える間さえなく返される。
シエルの人生は波乱すぎてリヒトには当然理解できない。
特殊な人生を歩まざるを得なかった経緯の責任の一部は、その原因たる存在の子孫であるリヒトが背負わなければいけないものであり、リヒト本人もそれは受け入れている。
シエルはリヒトを縛ることが出来るがリヒトはシエルを縛れないのが現状である。
「そんな目で見たって行かん」
「……」
バッサリと切り棄てられてリヒトは肩を落とした。
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