序章 魔骸戦線…終結直後

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   現在依り丁度三十年前に当たる平成二十年代後半。地球上に一つの黒点が出現した。 ブラックホールの様な禍々しさを放つその物体は、地上に住む人間達の注目を集め、多くの者達がその正体を確認する為に調査を急ぐ。 夜空に浮かび、周囲の景色をも捩じ曲げる黒点。 その正体とは一体何なのか。 誰しもが抱くその疑問も、最初の発見から二十二時間後に明かされる。 唯一つだけ空に浮かんでいた筈の黒点が、何の前触れも無く爆発的な勢いで増殖を始め、たった半日で世界中を埋め尽くしてしまった。  幾万の黒点が天を支配し、人類の混乱も最高潮に達した時、その黒点は異形の者達を次々と吐き出し、地上へと送り込む。 それは神話や伝承等で語られる様な、人智を遥かに超えた異質なる存在。 所謂≪悪魔≫と呼ばれる者達だった──。 …☆…☆…☆…  魔導対策機関所属、超法規的独立魔導師部隊……≪アヴェスター≫の発足より十年前。 現世と別世界を接続する異界門……虫食い穴(ワームホール)が世界全域に大量発生してから二十年の歳月が過ぎた。  虫食い穴より来訪する幾千の異種族と、古来より地上に住む人間種との衝突も納まる事を知らず。 欧州某国に於ては、異界門より排出された高名なる魔神の亡骸を巡る紛争……≪魔骸戦線≫が勃発した。  “魔骸”を手にした者は、無限にも等しい魔力及び絶対的な権力を得ると予言され、虫食い穴の出現以前より存続していた魔導結社の他、魔導士族の者達も挙って欧州某国へ集結した。 彼等と同じくして、魔骸に惹かれ、二千種にも及ぶ異種族がこの世界へと来訪する。  悪魔や魔人、魔獣とも称される異種族に魔骸を引き渡せば、地上は彼等に支配され、強大な力を前に人類は破滅する。 ……権威を得る為に結集した魔導師達も悪魔の出現に危機感を募らせ、瞬く間に互いの技術(クラフト)を用いた武力衝突へと発展していった。 力を求める悪魔と和平を持ち掛ける事こそ無謀。奴等を排斥せぬ限り、この世界に未来は無い。 ……魔骸戦線に参戦した魔導師達は皆、異種族の反応に対し懐疑的であり、彼等の排除に異を唱える者も存在しなかった。  現に虫食い穴の大量出現後、世界情勢も最悪の物と変わり、僅かに均衡が崩れるだけで人類の滅亡も必至……という状況へと追い込まれている。 その最中に出現した魔骸を巡る争いも七ヶ月間続き、人間種、異種族、双方合わせて死者は一万を超えた。  
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