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リッシェルが後ろでまだギャーギャーなんか言ってる中、クロエが両手でヒロユキの右手を取ってきた。
「ヒロユキ、正直、オレはあいつの事、嫌いだし、このままいなくなるなら、それでもいいんだけど」
「お、おう」
「こういうのは、なんか、やだよ」
クロエが何を言いたいのかわかってしまうのがもう辛い。
「あーもう、なんでお前らは普段、三人揃ってアンポンタンなクセになんでこういう時だけ鋭いんだ、嫌になるよ!」
そう言いながらもヒロユキは内心に思っていた。
だから、こいつらの事を嫌いにはなれないのだと。
「喧嘩しました!」
そこからヒロユキは、れんげとの経緯を二人に話した。
二人はヒロユキを変に責めたりはせずに黙って話を聞いていた。
「かくかくしかじかで大方、そんな感じだ」
「はい、最後のかくかくしかじかは意味がわかりませんけども」
「かくかくしかじかを掘り起こすなよ!」
「かくかくしかじかは、マジで意味がわかんないけど」
「クロエまでぇ……」
ヒロユキがうんざりしていると、クロエは至って真面目に、
「オレはさ、ヒロユキのおかげで殺し屋から足を洗えたと思ってて感謝してる」
「って、おい!クロエ!」
「いいんだ、いつまでも隠してられないから」
リッシェルがいるのにそんな話をしたら、とヒロユキが心配しているのとは対象的にクロエはへらへらと笑っていて、
「クロエは殺し屋だったのですか?」
「うん、親の言いなりになってそりゃもう殺したさ、何人も何十人も何百人も」
そこでクロエは両手を開いてみせて、リッシェルに笑いかける。
「オレのこの両手にはそいつ等の血の臭いが染みついてる。洗っても洗っても取れないんだ、これが」
「そうですか?海の潮の香りぐらいしかしませんよ?あとはクロエのいい香りです」
クロエの手の臭いをすんすんと嗅ぐリッシェルに一瞬、キョトンとしたクロエだったがその顔は次第に笑みを取り戻して、
「へへ……だろ?リッシェルならきっとそう言うと思ったんだ。だから話した」
「はい、好き好んで殺しをやるには、クロエは優し過ぎますから」
リッシェルの屈託のない笑顔に、クロエの笑顔から涙がこぼれる。
強いクセに臆病で、何にでもオドオドしていたクロエがよくぞここまで、とヒロユキも目頭が熱くなっていたがなんとか堪えた。
「きっと」
そう言って話を切り返したクロエはヒロユキの方を向き直して、
「あいつも同じなんだよな?だからヒロユキは……」
クロエにそう言われて、ヒロユキは会社でれんげと二人で話した時の事を思い出した。
言われてみれば、確かにそうだ。望む望まない、ツヴァイサーと殺し屋で立場は全く違うが、
ヒロユキが彼女に語りかけたのは、彼女を放っておけなかったのは、きっと、彼女とクロエがどこか似ていたからなのかも知れない。
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