第六章 ポンコツ達のまったり海水浴

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  「ヒロユキ、あの時、私の前に現れてくれてありがとう」 「お、おい」 「せっかくやり直してるんだから、黙って聞いて!」 「は、はい!」 怒られて思わず姿勢を正したヒロユキを見て、コーネリアは頬を染めながら、 「コボルトに殺されそうになった時、身体を張って守ってくれて、ありがとう」 コーネリアに言われて、あの時の事を思い返したヒロユキは、いや、あれはどう見ても俺が守られていたようなと思って汗を流したが、また怒られるので余計な口を挟むのはやめた。 「病気なった私を見捨てないで毎日、顔を見に来てくれて、ありがとう」 ヒロユキにそんなつもりは微塵も無かったが、あの時は知り合ったばかりだったし、コーネリアは病気で部屋に籠もりきりだったのだ、そんな不安もあったのかも知れない。 「館の上級魔族を仕留めさせてくれて、ありがとう」 あれはもう、なりふり構ってられない状況でそれしか作戦が思い付かなかっただけなのだが。 「そして、高杉社長の前で緊張して何も言えない私に、発破をかけてくれてありがとう」 一通り言い終えたのか、コーネリアはそこでヒロユキの右手から手を離して座り直して、うっすは見え始めた星空を見上げた。 「本当、ありがとうね、ヒロユキ。あんたがいたから私はここまで来れた」 そんな感謝の言葉を聞いたヒロユキは、小指で耳をほじりながら、 「で、これ、なんのフラグ?お前、明日死ぬの?」 「ちっがうわよ!ただ、あんたに感謝してるのをわかってもらいたくて……」 「そういうのが、気に入らねえってんだ」 ヒロユキは満足そうに笑うコーネリアを真っ向から否定する。 「いいか?お前が今、ここにいるのは俺がじゃない、他の誰でもないお前が頑張ったからだ、コーネリア」 「私が?」 「ああ、弱さを引け目に感じるんじゃない。お前が俺がいたからってんなら、お前が俺を呼んだからここまで来れたんだ、違うか?」 「でも、あんたは迷惑だって……」 「そりゃ、最初はそう思ったさ。けど、今は違う、俺はお前もこの世界も嫌いじゃなくなったらしい」 後半は少し照れ臭くなったのか、だんだん小声になって控えめになってしまったが、想いはコーネリアに届いたようで、彼女は笑顔を取り戻して、 「そうね、あんたの言う通りよ!今日ここで私は死ぬわ!いや、死んだわ!」 「お、おい?」 「弱い私はさよならってワケよ!だって私は超強い魔導師になるんだから!」 自信満々に胸を張って言うコーネリアに、ヒロユキは少しホッとして、呆れた様子で、 「その台詞はアホっぽいが、それでこそコーネリアだ」 「おい、一体、どの辺りがアホっぽいのか詳しく聞かせて貰おうか」 「超強い魔導師の辺りが」 「なんでよー!カッコいいと思わないの!?あんたのセンスどうなってんの!?」 「師匠譲りのセンスになってきたワケだよ」 「待って!あそこまで酷くないでしょ!?ねえ!?」 照れ隠しにからかってはいるが、弱さを捨てたコーネリアの精進を心から願って、同時に嬉しく思うヒロユキだった。 きっと、明日からもれんげ師匠の悪魔的シゴキは続くのだろうが、是非挫けずに頑張って欲しいと願う。  
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