第七章 嘆きの海に潜む影

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  高杉直人の海の家を手伝った翌日、ヒロユキは浜辺でパラソルを立てて、ゆっくり横になって旅の疲れを癒やしていた。 海の家を手伝ったりするのも、いい思い出作りという意味では楽しかったが如何せん労働だったので、非常に疲れてしまった。 クロエとリッシェルは精神的に幼いのもあってか、海で泳いだりして楽しそうに遊んでいる。 本当の所、ヒロユキもあの美女と美少女に混じってワイワイキャッキャしたい所ではあるのだが、なんせ筋肉痛は運動した当日より、翌日に酷くなる物なのである。 「つまり、身体中痛すぎてまるで動けません」 大人ぶってサングラスなんかしてリゾートを満喫している風を装ってはいるが、裏にはそんなしょうもない事情があったりするのだった。 「ふふふ、ヒーロユーキさん?誰に説明してるワケですか?」 暇そうにしていると空かられんげが降ってきた。 高杉直人やれんげは当たり前みたいにしてるが、ツヴァイサーはCランク以上になると普通に空を飛べるらしい。 「おう、れんげさん、コーネリアはどうした?」 「コー姉なら……」 その頃、浜辺より100kmぐらい離れた沖合で、コーネリアは陸地に向かって必死に泳いでいた。 「ぬわんでよぉぉぉー!!100km泳げはまだ解るけど、なんで追手が付いてんの、これぇぇぇー!!!」 魔法まで使って半泣きながらに全力で泳ぐコーネリアの少し後には、船にかじり付いて転覆させてしまいそうな程に巨大な魚影からサメらしきヒレが水面より上を疾走してコーネリアを猛追していた。 「ぎにゃあああ!死ぬぅぅぅー!!ガチなヤツ!これガチで死ぬヤツだから!!お願い助けてれんげ師匠ぉぉおー!!」 助けを求めたれんげ師匠はというと、 「まあ、そんな感じで今日も強くなる為に頑張っているワケですよ!」 「今日は遠泳か……100kmって……また酷いメニューだな……」 という感じで、とっくの昔に浜辺に帰って来て、楽しくお喋りの真っ最中なので、コーネリアの窮地など知ったこっちゃないのだった。 「これでもコーネリアさんのリクエストにお応えしたワケですよ?」 「リクエスト?」 「はい、せっかくバカンスに来たから泳ぎたいと」 「自業自得だったか、あのおバカ……」 まあ、泳ぐのは全身運動で、全身を鍛えるのに適していると聞いたような覚えがあるし、頑張れおバカ。 と、コーネリアの生命の危機を全く知らないヒロユキは心の中で、エールを送っていた。  
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