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急に様付けし始めたヒロユキにちょっと引きつつも、引き続きマッサージを続けていたれんげだったが、急に手を止めて何やら真剣な表情で考え始める。
「どうした?」
手が止まったのが気になってヒロユキが尋ねると、れんげは至って真面目な口調で、
「ヒロユキさん、これは本当にただの筋肉痛ですか?」
「な、なんだよ、女医さんが言うと怖いな」
「茶化さないで!深刻なんですよ!」
「えっ、あっ、はい……」
そ、そんなにヤバいの!?とヒロユキはドキドキしながら、背中から降りて座り直したれんげと向い合うように正座する。
「筋組織の崩壊が以上です。元より筋肉痛というのは筋組織が破壊されてより強い物に再生する時に起こる現象ですが、一体何をしたらここまでなるんですか!?」
「いや、本当にオーガと戦ってちょっと無理しちゃっただけなんだけど」
まさか喋る刀の話は出来ないし、ここはこう言うしかない。嘘を言っているワケではないし。
でもどこか後ろめたい気持ちになったヒロユキが無意識に目を反らしてしまうと、れんげは少し震えたような小さな声で、
「あたしが部外者だから……ですか?」
「いや、そんな事は思って……ない……けど!?」
ヒロユキが視線を戻すとれんげの瞳から涙が流れているのに気付いて、ビックリする。
「お、おいおいおい、どうしたんだ?」
「だって、だって……あたしはこんなに心配してるのに……それなのに……!」
「逆にどうしてそこまで心配してくれてるんだ君は?俺との付き合いなんてまだ二日も経ってないじゃないか」
「好きになっちゃったんだから仕方ないじゃないですかー!!!」
「わ、悪かった!悪かったって、ごめん!わかった言う!言うから泣き止んでくれー!」
この子、マジか……というのが、ヒロユキの中での素直な感想だった。
ヒロユキは漫画やアニメとかに出てくるような鈍感難聴の主人公ではないので、れんげが好意を寄せているのは気が付いていた。
気が付いてはいたのだが、まさかここまで本気の好意だとは夢にも思っていなくて、どうすればいいのかわからなくなって、とりあえず謝って泣き止むのをお願いするしかなかった。
しかし、
「はい、泣き止んだワケなので話して下さい」
「は?」
嘘……泣き……だと……!?
目をまんまるにしたヒロユキはこれが現実と書いてリアルなのかなんなのかわからずに目をゴシゴシする。
「いやあ、ヒロユキさん。こんな若輩者が言うのも少し気が引けるのですが……」
「え?ぁ……はい……」
「チョロ過ぎですよ?」
胸にグサリと突き刺さる言葉だった。これが小悪魔系というヤツなのだろうか?
小さい悪魔だし、間違いない。鈴原れんげはこんな子供みたいな見た目とは裏腹に、大人な駆け引きが出来るとんでもない子なのだと思い知ったヒロユキだった。
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