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ヒロユキがネガティブモードに突入して、背を向けたまま、何も話さないでいると、後ろで座っていたれんげは静かに立ち上がった。
「いけませんか……?」
ハイハイ、また嘘泣きね、そうそう何度も騙されるヒロユキさんではない。
とか勝手に思って華麗にスルーを決め込んでいるとれんげは続けて、
「友達だって……言ってくれたじゃないですか?」
「正確には、なれるかも、な」
「……駄目ですか……?」
「…………」
一応、高杉社長に世話になっている手前、あんまりな事は言えないのが社会人のマナーなので、ヒロユキは沈黙を答えとして選んだ。
「何か気に触ったのなら謝ります……」
「別に。もういいだろう?俺はほっといて欲しいんだ」
所詮、凡人と天才は理解の範疇が違うのだ。
ましてや年の差はあっても男女だ。
彼女がヒロユキの事がわからないのと同様にヒロユキにも彼女の事が理解出来ないのだ。
「……失礼……します……」
重苦しい空気に耐えきれなくなったのか、れんげは一度頭を下げて、うなだれながらトボトボとヒロユキから離れていく。
「あのさ」
ヒロユキからの言葉に、れんげは足を止めて振り返る。
しかし、ヒロユキは横になって背を向けたままで、
「俺とはこんな事になっちゃったけど、コーネリアの事は頼むな、虫がいいのはわかってるけど、あいつは真剣なんだ」
「わかって、いますよ。任せて下さい!コーネリアさんは立派に仕上げてみせるワケですよ!」
「あっそ、よろしく」
ヒロユキが背を向けたまま、手を振っているのを見て、れんげは辛そうな笑顔を作って空元気を装う。
しかし、ヒロユキに背を向けると、彼には聞こえないような小さな声で、
「これ以上……嫌われるのは……本当に辛いですから……」
ぼそりと呟いて、そのまま走り去ってしまった。
途中、海から上がったクロエとリッシェルがれんげを見かけて声をかけようとするが、
「なんだ、お前来てたのかー?ヒロユキなら……」
「ごめんなさい!」
れんげはそんなクロエの隣を突っ切って走り去る。
「あっちのパラソルに……っておい!」
「何かあったんでしょうか?」
海で濡れたクロエの頬に当たった雫は一体なんだったのかを知る術はない。
しかし、クロエは頬に手をやってそれが一体なんだったのかをずっと考えていた。
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