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その日、若山裕之(わかやま ひろゆき)ことヒロユキは鼻歌を口ずさみながら、上機嫌に自宅の扉を開いていた。
お世辞にも広いとは言えないワンルームマンションの一室、そこはベッドとテレビと冷蔵庫を置くと生活スペースはごくわずかといった具合。
トイレとバスルームが一つになった狭いユニットバスでシャワーを浴びて、ヒロユキはこの一ヶ月を思い返していた。
とてもじゃないが高偏差値とはかけ離れたごくごく平凡な高校を卒業し、とある技術系の企業で働き始めた。
ちょいオタで人見知りの激しい自分に鞭打ち、来る日も来る日もメモを片手に上司や先輩に怒られつつも充実した毎日を送っている。
そして、ついに彼はその日を迎えたのだ。
今日、彼は念願の初任給を手に入れたのだ。
そして明日はお休み、これ以上ない絶好のシチュエーションに、ひゃっほぉぉぉぉおおー!!!と奇声をあげたい衝動を抑えつつ、妄想を膨らませる。
ふっふっふ…………明日は新作のゲーム機を買いに行こう。プラモもアニメのDVDも欲しいものが貯まってるんだよな~
お昼は豪華に寿司かステーキか?それとも好物のラーメンかなー?新しい店が出てたんだよなー
とか考えて狭い湯船にゆるんだ顔で体育座りで浸っていると、なんか身体が淡い謎の光に包まれ出していた。
「ん?あれ?なんか光ってね?ヤバくね?なんかヤバくね?何これ!?怖い!」
大慌てで風呂から上がったヒロユキは咄嗟におもむろに脱ぎ捨てたスーツに手を伸ばした。
瞬間、光は急激に大きくなり、ワンルームマンションの一室からヒロユキの姿は塵一つ残さず消え去ってしまった。
変なぐねぐねした空間に飛ばされたヒロユキは抗う術もなく流されていた。
腰にタオル巻いただけの全裸で。
また眩い光に包まれた、次の瞬間にはヒロユキは宙に放り出された。
「なん……だと?」
ぎぃぃやぁぁぁああー!!と叫ぶ間もなく、ヒロユキは頭から地面に突き刺さった。
「ぎぃぃやぁぁぁああー!!!なんで人間!?なんで全裸!?!?」
そのまま、ぱたりと仰向けに倒れたヒロユキの傍らに顔を真っ赤にした少女が尻餅をついて絶叫していた。
頭が割れるように痛い。こめかみ当たりから血も流れているようだ。さらに極めつけにさっき宙から落ちた際にタオルも取れたようだもう死にたい。
「ちょ、ちょっとあんた、ダイジョブ……ですか……?」
尻餅をついた状態で恐る恐るといった風に少女はこちらを気遣ってくれている。
これには紳士として早急に生きている事をお伝えせねばとヒロユキは血塗れての顔を少女に向けて言った。
「お嬢さん。パンツ……見えてますよ……!」
「誰が見ていいつったぁ!?」
ヒロユキは顔面に近場に落ちていたタオルを思いっきり投げつけられた。
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