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ひたひたと、床を素足で歩く音が聞こえる。
それに気付き、ベッドに横たえていた体を気怠げに起こそうとした所で、部屋の扉が静かに開いた。
「こんばんわ……ご主人様」
「こんばんわ。私をご主人様と呼ぶのは止めなさい。好きではない」
彼女は酷くそう言われるのを嫌っていた。
「世都(セツ)、体調が悪いの?」
心配気に彼女は世都の顔を覗き込んだ。
満月の光が差し込む薄暗い室内では、顔色など到底解りはしない。
「大丈夫ですよ。悠希(ユキ)」
言って体を起こそうとしたが、支えていた腕がカクンと肘から折れ、ベッドに突っ伏した。
何も着ていない無防備な背中で、色素の薄い髪が遊んだ。
銀色の髪は月明かりに照らされ、つやつやとしていた。
「無理や強がりはしてはいけないといつも言っているでしょ」
心配と、不安、苛立ち、焦りが入り交じった声で言った。そして、やんわりと世都の華奢な背中を掛け布で隠してやった。
「無理は、してませんよ。御用だったんじゃありませんか?」
突っ伏したまま、世都はそう訊ねた。
「良い。そんな体じゃ無理よ。まだ余裕の有るものだから、良いわ」
言って悠希は、世都の滑らかな背に有る蔦(ツタ)の絵を撫でた。
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