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ベッドからあまり動かない世都の為に、一室のみでも生活が可能な様になっていた。
「起きて薬を飲みなさい」
ひたひたと音を立て、悠希は世都の元へとやってきた。
「解熱剤はあげないわ。風邪薬だけよ。口を開けなさい」
がくがくする腕で体を支え、世都は何とか起き上がった。そして、僅かに開いた口に薬を入れ、コップを渡した。
それを受け取り、水を嚥下すると、月明かりで濃くなった影が動き、喉仏が上下するのが見えた。
飲み終わるとそのまま砕け落ちるかの様に、ぱたり、とベッドに崩れ落ちた。
そんな世都の素肌を悠希は又、隠してやった。そして、サイドテーブルにコップと、水の入ったガラス容器を置いた。
「きちんと薬は飲みなさい。食事も。瑶さんに頼んでおくから、きちんとしないと解るわよ。力が無いと仕事もこなせない」
言って、悠希は踵(キビス)を返し、ひたひたと歩きだした。
「悠希……」
今にも消え入りそうな声で世都が呼び止めた。悠希は顔のみを捻り、足を止めた。
「仕事は、なんだったのですか?」
言った世都を冷たく見下ろし、前を向き直り歩き始めた。
「今の世都には教えません」
冷たく言って、悠希は部屋を出ていった。
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