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『珪翔の分、動けるのだろう』
言って、恢濫は世都の右肩をベロリ、と舐めた。
「はぁっ!」
『あ。ごめん』
世都は眉間に皺を寄せ、喘いだ。
恢濫が舐めた部位に丁度、蔦が有ったのだ。
「わざと、でしょ……」
世都はぎっと鋭い目を向けた。
恢濫は少し申し訳なさそうに、悪戯な目をして頭を下げた。そして、額を世都の額に押しつけた。
「良い、恢濫。しなくて、良い」
『静かに……』
言うと、合わせた額から淡い、青白い光が序々に広がり、それが世都の全身を包んだ。
全身を包んで僅か2、3秒でそれは消え、恢濫はばたり、と伏せた。
「恢濫……。だから言ったのに」
言い乍、世都は体を起こした。
『恢濫がこの状態を引き受ける。だから、世都は少しでも元気になって、恢濫達を遣ってくれ』
「恢濫……」
世都は労る様に、恢濫の栗色の毛並みを撫でた。
見た目より柔らかなそれは、子供の髪の毛の様だ。
「ありがとう、恢濫。ゆっくり、休んで……」
それに頷くかの様に、色素の薄い黄色い瞳を閉じた。
それを見届け、世都は部屋を出ようと恢濫に背を向けた。
僅かに開いた恢濫の瞳には、あの花が写った。
あの、燃える様に紅い花が。
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