愛情 #2

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「風伎(フウギ)……!」  そんな悠希達の気持ちも知らず、あの時世都はそう名を呼んだ。  やっと聞き取れるくらいの小さな声で。  薄く日焼けをした様な、血色の悪い肌色の人型の聖獣は、僅かに茶色掛かった白い巻き毛に尖った耳をしていた。  風伎と呼ばれた聖獣は、風と戯れる様に世都の傍、血溜りの上五センチ程に髪をそよがせて浮いていた。  その聖獣は着物の袖の袂を右手で避け、世都の頭を優しく撫で付けた。  黄色掛かった緑の瞳は、優しく世都を見つめていた。 『久しぶり、世都』  風伎はその場にそぐわない言葉を世都へと掛けた。それでも世都は、微かに笑っていた様だ。  挨拶を終えた風伎(フウギ)は、くるりと対戦者に向き直ると、左手の甲でまるで虫を払うかの様にした。すると、そこから発生したものが一直線に相手に辿り着き、鋭い刃物の様に数体を切り裂いた。  それは、かまいたちであった。  新しい対戦者の現われに、余力の無い彼らは一目散に退散した。敵とて痛手を負っている。新手に立ち向かう気力もないのだろう。
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