79人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
“やはり、次期聖主様との御関係に相応しいのは…、”
そんな囁きが第6階層の至る所で聞こえ始めたのは、カイゼルが次期聖主側近となって三ヶ月程が過ぎた辺りからだった。
―――――
早朝の冷ややかな空気を溶かし、太陽がゆっくりと大気を暖めながら中天に向かう午前。
クロアは朝から聖司補佐官として神殿内の各部署を廻り、午前中の公務に必要な書類や資料等を集めていた。
第6階層、神殿。
各部署を廻り終えたクロアが、書類の束を片手に聖司官執務室に帰室するため向かっていると、
「あー、クロア!丁度良かった」
「フィリル殿」
途中の廊下でもう一人の聖司補佐官、フィリル・N・リレリアに背後から呼び止められた。
ゴールドブラウンの軽い癖毛に薄い琥珀色の瞳。クロアよりも歳上ながら同年代にも感じる、どこかのんびりとした雰囲気に甘い顔立ちの青年、フィリルは、
「今、帰るとこ?」
「そうです。フィリル殿は?」
「俺も、院からの書類と用向きを預かって帰るとこ」
フィリルの呼び掛けに脚を止め、立ち止まったクロアへ、軽く駆け寄りながら自分が手にしている書類を示して見せた。
クロアと同じく、此方は早朝から元老院へと出向き、ロアへの書類と用件等を預かってきたらしいフィリル。
「さっき、院の長老様達の所を廻ってる最中に、三位様と五位様にお前とカイゼル殿の事、訊かれてさ。一応、その事、お前に伝えておこうと思って」
「そうですか。わざわざすみません」
詳細を語らずクロアを呼び止めた理由を簡単に告げるフィリルに、クロアは内容を察した表情で応じる。
元老院長三位と五位。
クロアの父とカイゼルの父。
一体、何の為にどの様な目的で、二人がフィリルに自分達の事を訊ねたのか。具体的な詳細を明かされなくてもクロアはその内容が予想でき。
「やっぱり、いろいろと噂になってるから、結構気にしておいでだったよ…」
「…………………………」
不安を滲ませたフィリルの溜め息に、クロアは無言を返した。
カイゼルが次期聖主側近となって、既に三ヶ月。
“次期聖主様の御相手はやはり……、”
ロアの恋人としてクロアとカイゼルを比較するそんな囁きが、現在、第6階層の至る所で交わされていた。
最初のコメントを投稿しよう!