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すべてが嫌になって逃げ出した学園に、どうして俺は戻ってきたのだろう。中等部とはずいぶん違う並木道を歩きながら考える。
3年前、俺はこの学園を逃げ出した。家のためにと色々なことに我慢していたはずなのに、信じていた人の言葉ひとつに耐えられず逃げ出してしまった。
両親は逃げ出した俺を受け入れてはくれなかった。兄は優秀な成績を残しているのに、弟の俺は学園を退学。家の恥さらしだと突き放されてしまった。
「ほんと、なんで戻ってきちゃったんだろうなあ、俺」
中等部と高等部。持ち上がりだからあの時と同じ生徒たちがいる。きっと何にも変わってないのだ。俺を追い詰めたあいつが、支配者として支配してるに違いない。
でも、これが最初で最後のチャンスだ。家から放り出されてしまった俺だけど、今度こそ無事にこの学園を卒業したら家の一員として受け入れてもらえる。兄や妹に会わせてもらえる。存在を認めえもらえる。
どうせ、誰も俺のことに気づきもしないだろう。あいつに関わりさえしなければ、俺は顔も覚えてもらえないただの平々凡々な人間なのだ。親しい友達を作る暇もなかった俺を覚えている人はいない。もしかしたら親衛隊あたりには制裁対象として名前ぐらいは記録が残っているんだろうか。
(あの人だって、気まぐれに道端の石ころを拾っただけだ)
もう石ころを拾ったことすら忘れているだろうし。
中庭に辿り着く。相も変わらず無駄にきらきらした男たちがたくさんいた。みな、黄色い悲鳴を上げ校舎を見上げている。つられて視線の先に目をやった。
色の違う制服を着たイケメン集団が廊下を歩いているのが見える。ある意味でよく見知った生徒たちだ。震えだしそうになる身体を無理やり押さえつけ、乾いた笑いを浮かべる。どうやら彼らは高等部でも学園のトップに君臨しているらしい。やはり、この学園は3年前と何も変わってないのだ。
しかし、彼らの中にはあの人を見つけられなかった。安心したような、残念なような複雑な気持ちがぐるぐると胸の中をまわる。3年たっても忘れることができない。優しかったあの人の面影を。
―――キス、してもいい?
今でも、耳の奥にあの人の声が聞こえてくる。
「さっさと忘れないとなあ」
もう、俺には縁のない人なのだから。
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