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俺は腐男子である。素敵サイトを探すのが日課だ。
ネットの中では腐男子はノンケが多いが俺はバイだ。女の子がそばにいるとドキドキするし男の裸を見て目のやり場に困りもする。
しかし冴えない容姿に内気な性格のせいで友達はいないし告白なんてしたこともましてやされたこともなかった。
そんな俺だが、何故か彼氏がいる。
(いや、彼氏じゃないのかも)
扉越しに聞こえる喘ぎ声が、ひどく自分をみじめにさせた。
この扉の向こうでは俺の彼氏であるはずの彼が同じ男を抱いている。色っぽい声で情熱的に愛を囁きながら。聞こえるわけがないけど、「愛してる」と言い返す。
(あーほんと、ばっかみたい。俺)
もう何度目になるか分からない彼の浮気に、最初はやめてくれと言った。しかしそう言うと彼は決まって「じゃあ別れるか?」と聞いてくる。そんな風に言われると、俺は別れたくないと答えるしかなかった。
そしたらもうなし崩し的に浮気を許さなくてはいけなくなって、彼も隠そうとはしなかった。
本当は、すっぱりと別れを切り出すべきなんだろう。こんな関係はお互いによくないし、疲れるだけなのだ。けど物語の受けっこたちみたいに、合鍵を突っ返してやるとか引っ越すとか、そういうことが俺にはできない。俺は臆病なんだ。
(今の生活を壊せない)
受けっこたちは、浮気野郎が本当に愛しているものが誰なのか気づくとか別れた先で新しい人を見つけるとか、大概が幸せになる。しかし俺にはそんな幸せな未来が想像できない。こんな根暗を必要としてくれる人は、彼しかいないのだ。例えそれが体のいい家政夫のような扱いだとしても。
こんなどうしようもない俺を必要としてくれる人が、彼以外に存在するわけがない。家族でさえ俺を必要としなかったのに、他人が俺を求めたりしない。彼が俺を欲しいと言ってくれたこと自体が奇跡みたいなものなのだ。
(臆病者と罵られても、俺はこの幸せを投げ出せない)
この生活を捨てても待っているのは誰にも必要とされないかつての日々。あの現実にはもう戻りたくない。これ以上に幸せな日々が存在するわけないのだ。俺を必要としてくれる人はいないのだから。
扉の向こうから愛を囁きあう声が聞こえる。掠れ声の愛してるが聞こえる。
「愛してる」
(そう。俺には彼しかいない)
だから俺は彼の隣で彼を愛し続けるのだ。
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