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「あの、大丈夫ですかっ」
床に散らばった物を拾い、彼女へと目線を往復させる。
筋の通った、尖った鼻柱に、緋色の口紅が肌の白さを際立たせている。
肩より少し越す髪は内側に巻かれて、目を見なくても、綺麗な人だと十分すぎるほどに分かった。
こめかみを押さえながら顔を上げた女性はすぐに眉を寄せた。
「あなた…」
「本当にごめんなさいっ、よそ見してしまってて…本当にすみませんでしたっ」
「大丈夫なの?」
「…え?」
「だからあなたは大丈夫なのって聞いてるの」
こちらを見ることなく、キーケースを鞄に入れる動作さえも品の良さを感じさせる。
淡々とした口調だか、それでもその気遣いの言葉が沁みて、いっそう申し訳ない気持ちで一杯になる。
「私は大丈夫ですっ。あの、本当にすみませんでした。大丈夫ですか?もし痛いところがあれば」
「大丈夫よ」
落ち着きはらった彼女から言い放たれたその声には、冷たさを含んでいた。
いきなりぶつけられたら誰だってむかつくはずだ、怒鳴らないだけ優しい。
「すみませんでした…」
盗み聞きしていた罰だ。
私ってやつは本当に何しているんだろう…。
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