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てっきり謝罪されるかと思ったのだが、ロイスはごく真剣に、疑問を口にした。
「僕が用意したのは、男物の服だ。そのズボンもシャツも、もちろん買えばそれなりの値段のする良いものではあるが、それでも男物だ。それを、なぜ、そうも自然に、着こなしているんだ! いや、そもそも、着ることを拒否することもできるだろう! なぜあたりまえのように着ているんだ! なぜ自分のことをオレというんだ! いったい、なぜ……!」
なるほど、喧嘩を売られているらしい。キルリアーナはゆっくりと目を細める。
「要するにあんたは、オレが女らしくないことがそもそもの原因だっていいたいんだろ」
「原因とか、そういう話ではない! そもそも女性とは……もっと柔らかくていい臭いがして、こう、抱きかかえたときにしっとりと肌が馴染み、自然と気持ちが高揚し、かつどこかに安心感が広がり、しかし同時に心をかき乱され、こうして至近距離にいたらもういてもたってもいられなくなる、そういう存在ではないのか! いや、そういう存在で、あるはずだ」
ものすごい力説だ。キルリアーナは怒るどころかいっそ感心した。よほど女性というものを愛しているらしい。
自分の性別が女性であることがもうしわけないような気にすらなってくる。とはいえ、反論するつもりはなかった。
「まあ、あんたのいってることは、わかるよ。オレも女ってのはそんなもんだと思ってるし、そんな女が大好きだ」
正直に気持ちを伝える。そうだろうそうだろうとうなずいて、ロイスは動きを止めた。
「大好き? いや、ちょっと待ちたまえ。女性が……大好き?」
「大好きだね。女ってのは神秘だ。生命を体内で育み、生み出し、母乳という最高の栄養源を生成できる。もちろん女だけじゃ命はできねえけど、それでも女は偉大だ」
それは、キルリアーナが常々思っていることだった。女性は素晴らしい。自分が女性であるという事実は脇に置いて、女性という存在そのものに敬服の念を抱いているといってもよかった。
「ああ、なるほど。いや、しかし、君も女性だろう」
もっともな言葉を返される。キルリアーナは肩をすくめた。
「オレは子を生まない。オレが女でなくてはいけないのは、また別の理由だ」
「ううむ」
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