第一章 パジェンズの医師

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 両手を組んで、ロイスは複雑な顔をする。キルリアーナとしてはごく明確な返答をしたつもりだったのだが、どうやらお気に召さなかったようだ。 「まあ、とにかくさ。風呂のことはもう忘れろよ。だいたい、どう謝ればいいかわからないとかいっていたその口で、女らしさを語るとかよ、みっともねえんじゃねえの。小せえ男だな」  思ったままにそういうと、ロイスは突然目を剥いた。 「小さいだと!」  両の拳を握りしめ、わなわなと震え出す。  それほどまずいことをいってしまっただろうか。キルリアーナはかすかに身を引いたが、間違ったことをいった覚えもない。 「小せえだろ、充分」 「君の胸だって、小さかったじゃないか!」 「そっちじゃねえよ」  そもそもサイズを認識するほど凝視していない。キルリアーナは大きく息を吐き出した。 「オレは気にしてねえっつってんだよ。だから、あんたも気にすんな」  この不毛な時間が続くことのほうがよほどつらい。しかしやはりロイスがうなずかないので、もう一押し付け加える。 「いつまでも気にしてたんじゃ、せっかくの男前が台無しだろ」  少々、あからさまだっただろうか。  しかし、ロイスは目に見えて表情を変えた。まんざらでもないどころか、明らかにうれしそうに、頬の血色を良くする。 「ふむ、確かに、そのとおりだな。いつまでも細かいことにこだわっていてもしようがない」  馬鹿だ。キルリアーナは悟る。 「で、結局謝んねえのな」 「なにか?」 「別に」  首を振って、茶で喉を潤した。質の良い茶葉なのだろう。いくら飲んでも苦みに嫌味がない。 「まあ、あれだ」  この話題をひきずることに利点はない。足を組んで、本題を切り出すことにした。この場をあとにしなかったのは、茶と、もう一つは一応の用件があったからだ。 「オレが客を覚えてることはめったにねえけどな。あんたのことは思い出したよ、ロイスダーン・ランセスタ」  ロイスの表情が硬くなった。その変化に、キルリアーナは確信する。  キルリアーナのいう客というのは、患者を意味した。 「その様子と、この暮らしじゃ……やっぱりあの家にはいられなくなったか。そこだけ多少、興味があったんだ。聞かせろよ」 「君は傲慢だな。ものを頼む態度というものがあるだろう」
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