第一章 パジェンズの医師

14/23
前へ
/140ページ
次へ
 キルリアーナは手配書を奪い取り、力任せに丸めた。まったく忌々しい。この手配書が出回っているおかげで、追いかけ回される日々なのだ。 「どこにでもあるさ。少し裏へ入ればね。賞金稼ぎが、こぞって君を捜している」 「ばかばかしい」  吐き捨てると、ロイスは困ったように肩をすくめた。もちろんキルリアーナも、理解している。世間的には自分は間違いなく犯罪者だ。そして、たとえその真偽がどうであろうと、賞金がかかっているのなら追われるのは当然だ。 「今日も、賞金稼ぎに追われていたんだろう。しかもグループだったな。いつもあんな感じなのかい」  いつもといわれれば、いつもだった。ごまかすことでもないので、キルリアーナはうなずく。 「オレを追う全員が賞金稼ぎってわけじゃねえだろうけど、まあいつものことだ。逃げるのには慣れてるよ」  ロイスの表情が険しくなる。しかし、なにかを思い直したのか、彼は自分自身を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をした。それから、真剣な顔をする。 「そこで君に、提案があるんだ、キルリアーナ」  呼びかけられ、悪寒を覚えた。 「キルでいいよ。あんたの呼び方はなんかこう……まとわりつく」 「失礼だな。いや、まあいい。それならキルと呼ぼう」  いつの間にか、ロイスは足をベッドから出し、皮の靴を履いていた。真摯な瞳で、じっとキルリアーナを見つめてくる。 「キル」  やはり、背筋がひやりと──というよりも、ぬめりとする。 「なんだよ」  自然、ぶっきらぼうないいかたになる。見つめられて名を呼ばれるなどと、慣れていないにもほどがある。  緑色の目は、まるで少年のそれのように透き通っていた。そこにキルリアーナが映っている。その顔にははっきりと、逃げ出したいと書いてある。  しかし、手を取られ、逃げ出すことはできなくなった。両手を、まるで祈るように握りしめ、ロイスは顔を寄せる。  キルリアーナは反対側へと身体を引いて、距離を保とうとした。椅子から落ちそうになったが、ロイスが力強く握りしめているため、とどまることになる。いっそ落ちてしまいたいぐらいだ。 「僕はね、キル。君に助けられたあの日から、ずっと君を捜していたんだ。あの日までの僕は死んだ。新しい命をくれた君に、恩返しがしたい」 image=482179359.jpg
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加