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「却──」
下、といおうとした。冗談ではない。しかし、遮られてしまう。
「君を男だと思っていたが、女性ならばなおさら、君は守られるべきだ。こうして見つめていてもほとんど女性には見えないが、だいじょうぶ、僕はフェミニストだからね。全力で、君を守るよ」
その発言のどこがフェミニストなのか。キルリアーナにはもう、怒ればいいのか呆れればいいのかわからない。
結局黙ったままで仏頂面をしていると、ロイスは自信たっぷりにうなずいた。
「こう見えても、一通りの剣技を学んでいる。君の首を狙うやつらは皆追い払うと約束しよう。僕をそばに置いて良かったと、そう思う日が必ず来る」
「あのなあ」
押し売りにもほどがあった。どう断るのがもっとも効果的か、キルリアーナは思案する。
しかし、その間がいけなかった。タイミング悪く、部屋のドアがノックされたのだ。
「ロイス、ちょっといいかしら」
女性の声だ。宿の従業員だろう。
ロイスはすぐにキルリアーナの手を離すと、さっと髪を整えた。ベッドから立ち上がり、服の皺を伸ばす。
「もちろん、いいとも」
おそらく本人は男前だと思っているであろう低めの声で返し、一直線にドアへ向かう。ほんの半日のつきあいだが、キルリアーナはロイスという人間の本質を見たような気がしていた。そして、充分にうんざりしていた。
「その声は、ミルカかな? いったいどうし──」
鈍い音がした。
ドアを開けたその直後だった。来客の隙に窓から逃げようと腰を浮かせていたキルリアーナが、何事かと振り返る。そこにはキルリアーナの倍はあろうかという巨体の男が二人、立ちふさがっていた。ミルカという名らしき金色の髪の女性は、目を逸らして壁際に立っている。脅されたか、金をもらったか。彼女の様子から見ると、後者だろうか。
ロイスは情けなく床に転がっていた。完全に伸びている。男に殴り倒されたのだろう。
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