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それは、突然降ってきた。
布張りの屋根を柱ごと倒し、木箱に入れられた果物を一つ残らず巻き込んで、店と一緒に転がり落ちた。
店主が不在だったことが幸いといえば幸いだろう。しかし、ちょうどその露店の陰に隠れようとしていたキルリアーナにとっては、あまりにも最悪のタイミングだった。
あらがうことなどできるはずもなく、下敷きになる。
脳が揺れた。全身に衝撃を感じたが、果物がクッションになったのか、それほど痛くはない。その代わり、粘着性のある液体がまとわりつく。果実がつぶれたのだろう。
視界は闇だ。布が上から被さっているのがわかる。
鼻をつく甘い匂いにまみれながら、抜け出そうともがいた。なにがどれだけ自分の上に乗っているのか、想像できるだけに動ける気がしない。
そもそも降ってきたのは、おそらくは人間だ。
まずはそれが自力で動いてくれないことには、どうしようもない。
その人物に声をかけようと息を吸って、しかしキルリアーナは、それをそのまま飲み込んだ。
息を殺す。
路地にさしかかる、複数の足音。
石畳を打ち鳴らすようにしてやってきたのは、二人や三人ではない。どっちに行った、こっちに違いない──男たちの怒声が飛び交う。
キルリアーナは舌打ちしたいのを堪えて、長い時間をかけて息を吐き出した。なんてしつこいのだろう。飛び出していって全員を返り討ちにしてやりたい衝動に駆られる。そんなことは、できるはずもないのだが。
心臓は静かだ。まだだいじょうぶ、冷静に、平静に──胸中で唱える。
まさか崩壊した露店の下敷きになっているとは思われないだろう。自分なら思わない。
「おい、こっちにガキが来なかったか」
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