第一章 パジェンズの医師

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 それは、突然降ってきた。  布張りの屋根を柱ごと倒し、木箱に入れられた果物を一つ残らず巻き込んで、店と一緒に転がり落ちた。  店主が不在だったことが幸いといえば幸いだろう。しかし、ちょうどその露店の陰に隠れようとしていたキルリアーナにとっては、あまりにも最悪のタイミングだった。  あらがうことなどできるはずもなく、下敷きになる。  脳が揺れた。全身に衝撃を感じたが、果物がクッションになったのか、それほど痛くはない。その代わり、粘着性のある液体がまとわりつく。果実がつぶれたのだろう。  視界は闇だ。布が上から被さっているのがわかる。  鼻をつく甘い匂いにまみれながら、抜け出そうともがいた。なにがどれだけ自分の上に乗っているのか、想像できるだけに動ける気がしない。  そもそも降ってきたのは、おそらくは人間だ。  まずはそれが自力で動いてくれないことには、どうしようもない。  その人物に声をかけようと息を吸って、しかしキルリアーナは、それをそのまま飲み込んだ。  息を殺す。  路地にさしかかる、複数の足音。  石畳を打ち鳴らすようにしてやってきたのは、二人や三人ではない。どっちに行った、こっちに違いない──男たちの怒声が飛び交う。  キルリアーナは舌打ちしたいのを堪えて、長い時間をかけて息を吐き出した。なんてしつこいのだろう。飛び出していって全員を返り討ちにしてやりたい衝動に駆られる。そんなことは、できるはずもないのだが。  心臓は静かだ。まだだいじょうぶ、冷静に、平静に──胸中で唱える。  まさか崩壊した露店の下敷きになっているとは思われないだろう。自分なら思わない。 「おい、こっちにガキが来なかったか」
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