第一章 パジェンズの医師

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 どちらにしろ、なにをいっても男の態度は変わらないようだった。男はもうキルリアーナには注意を払わずに、颯爽と歩いていく。町の構造を熟知しているのだろう、裏路地を通り抜け、どんどん奥へ奥へ、進んでいく。  キルリアーナには、もう抵抗する気はなかった。こうなったら、風呂と食事を世話してもらって、ついでに清潔な服をいただいたほうがいいだろう。そのための我慢だ、これは未来への投資だ──自分にいいきかせる。  町の裏の、さらに奥へと進んでいくことも、好都合だった。キルリアーナが寝泊まりをしている宿もこのあたりだ。キルリアーナのそれとは異なるが、金さえ払えばだれにでも部屋を提供してくれる宿が、いくつも並んでいる。表のルールの通用しない、いわゆる無法地帯だ。  しかし、男は歩幅もそのままに、さらに進んだ。この先にはもう宿もなく、人通りも極端になくなる。日が暮れたその後にだけ賑やかさを振りまく、夜の町がたたずんでいる。  そのなかでも、一際いかがわしい界隈に足を踏み入れたあたりで、さすがに、キルリアーナは気づいた。というよりも、風呂屋ではなく、風呂のある店と男が表現した時点で、可能性に気づくべきだった。  行きつけの店というのは、おそらく。 「やあ、いま帰ったよ、レディたち」  まるで屋敷に帰りついた家主のように堂々と、男は店の看板をくぐった。 「あら、お帰りなさーい」 「ロイスちゃんったら、また外で浮気してきたんでしょお」  わらわらと迎え入れるのは、香水の香りをまき散らした美女たちだ。とはいえ、顔面に化粧が塗りたくられているので、素顔のほどはわからない。キルリアーナは思わず、まじまじと観察してしまう。 「なあに、今日は人助けさ。風呂を貸してくれるかな。このいたいけな少年を洗ってやりたいんだが」 「あら、かわいこちゃん。もちろん、すぐに用意するわ」  女のうちのひとりがウィンクをする。そこから目に見えないなにかが出たような気がして、思わずキルリアーナは避ける。
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