第一章 パジェンズの医師

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 このまま出ようかと考える。しかしそこで、思い当たった。そういえば、新しい服とやらは、どうなっているのだろう。  ちょうどそのとき、浴場の戸がノックされた。 「やあ、ちょっと開けるよ」  ロイスの声だ。返事を待つ様子もなく、なかへと入ってくる。 「湯加減はどうだい? せっかくだから、僕も一緒にいいかな」  扉を閉める音、それからすぐに、服を脱いでいるらしい音まで続く。キルリアーナの反応など気にするつもりはないようだ。衣類は持って来たのだろうかと、キルリアーナにとってはその点が重要だ。 「いいけど」  答えてから、思う。一緒に風呂に入ることは、キルリアーナの感覚では、問題がない。恥じらいの心を持ち合わせていないからだ。しかし、一般的にはどうか。  彼は、勘違いしたままではないだろうか。 「もう出るから、そのあと入れば?」  その提案は、善意のようなものだった。しかし、ついたてはあっさりと動かされる。 「男同士で、なにを遠慮しているんだい! せっかくなのだから、もっとゆっくりあたたまって、裸のつきあいを……」  目が合った。  ロイスはまったくの全裸だった。もちろん、キルリアーナもだ。  お互いの動きが、止まる。  キルリアーナは、ロイスの胸元を凝視していた。服の上から見るよりも、よほど頼もしい胸板。そしてそこには、縦に真っ直ぐ、大きな傷跡があった。 「あれ、あんた、もしかして」  見覚えがある。しかし、ロイスはそれどころではなかったようだ。  ゆっくりと、目を見開いたままで、彼の顔が上下する。  濡れたキルリアーナの、多少ではあるが盛り上がった胸と、細い腰と、その下とを、緑色の目が映し出す。  ロイスはそのまま、たっぷり三呼吸分、停止した。 「ああ、そっか」  いおうとしたまま、忘れていた。キルリアーナはとりあえず隠すべきところを隠そうかとも思ったが、それをする手段もないので、結局そのまま告げる。 「オレ一応、女なんだけど。裸のつきあい、すんの?」  ロイスは、ひどくゆっくりと、首を左右に振った。  静かに、ついたてが戻される。  その向こう側で、形容しがたい悲鳴のような声が、細く長く響いた。 image=482179287.jpg
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