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このまま出ようかと考える。しかしそこで、思い当たった。そういえば、新しい服とやらは、どうなっているのだろう。
ちょうどそのとき、浴場の戸がノックされた。
「やあ、ちょっと開けるよ」
ロイスの声だ。返事を待つ様子もなく、なかへと入ってくる。
「湯加減はどうだい? せっかくだから、僕も一緒にいいかな」
扉を閉める音、それからすぐに、服を脱いでいるらしい音まで続く。キルリアーナの反応など気にするつもりはないようだ。衣類は持って来たのだろうかと、キルリアーナにとってはその点が重要だ。
「いいけど」
答えてから、思う。一緒に風呂に入ることは、キルリアーナの感覚では、問題がない。恥じらいの心を持ち合わせていないからだ。しかし、一般的にはどうか。
彼は、勘違いしたままではないだろうか。
「もう出るから、そのあと入れば?」
その提案は、善意のようなものだった。しかし、ついたてはあっさりと動かされる。
「男同士で、なにを遠慮しているんだい! せっかくなのだから、もっとゆっくりあたたまって、裸のつきあいを……」
目が合った。
ロイスはまったくの全裸だった。もちろん、キルリアーナもだ。
お互いの動きが、止まる。
キルリアーナは、ロイスの胸元を凝視していた。服の上から見るよりも、よほど頼もしい胸板。そしてそこには、縦に真っ直ぐ、大きな傷跡があった。
「あれ、あんた、もしかして」
見覚えがある。しかし、ロイスはそれどころではなかったようだ。
ゆっくりと、目を見開いたままで、彼の顔が上下する。
濡れたキルリアーナの、多少ではあるが盛り上がった胸と、細い腰と、その下とを、緑色の目が映し出す。
ロイスはそのまま、たっぷり三呼吸分、停止した。
「ああ、そっか」
いおうとしたまま、忘れていた。キルリアーナはとりあえず隠すべきところを隠そうかとも思ったが、それをする手段もないので、結局そのまま告げる。
「オレ一応、女なんだけど。裸のつきあい、すんの?」
ロイスは、ひどくゆっくりと、首を左右に振った。
静かに、ついたてが戻される。
その向こう側で、形容しがたい悲鳴のような声が、細く長く響いた。
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