第1章

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その後、雷役の代役は翌日にC班に合流したが、伍作役はなかなか来なかった。 疲労が限界に達した源さんは、とうとう舞台装置の設置中に動けなくなってしまった。 座長に話すと、車の中で休むように言われた。 車の中でこれからどうしようと不安に思っていると、座長が通りかかって、 「役立たず!!! 死になさいよ!」 と吐き捨てるように言った。 このままじゃやばいと思い、 座長の了解を取ってすぐに病院へ行った。 医者の診断は、過労による身心耗弱状態。 一週間の休養を要するにというものだった。 座長の竹田に見せると、しばらく考えていたが、 「応援の代役が来るまでは血を吐いても出てもらわなければならない。 じっと寝てるだけの演技でいいから舞台には出てくれ。」 と言われ、最初から雪女に殺されるまでの10分間、舞台の上で寝転ぶ演技をすることになった。 もちろんセリフはない。 山小屋で息子の佐助が来るのを待っているという設定に変わった。 そのまま、雪女が入ってきて凍死させられるというように筋書きが変えられた。 それで一週間の舞台を勤めて、やっと10日目に伍作の代役が到着した。 それからは、客席で見る立場になったが、ビデオの録画もなかったので、代役の伍作の演技を見ることは、上手ければ上手いなりに、下手ならば下手なりに、 「ああ、ここはこう演じればいいのか。」 とか、 「ここは、こうすると変に見えるから、気をつけないと。」 ということがよくわかって、その後の演技に非常に役だった。 やがて、冬も間近の11月末、伍作役の源さんは体調不良を理由に、和歌山の市民会館での演技を最後に劇団を去ることになった。 団長が見にきていたこの時の演技がどんなものだったのかは、前に書いた通りである。 源さんが去ったあとには、落ち葉が吹きだまりで踊っていた。 それは木の葉の予言だった。 【あなたの人生は終わったように見えるけど、本当はこれからが正念場よ。】 このあと源さんは、演劇学校に入って、本格的に役者への道に踏み出すことになるのである。           完
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