第1章

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喉にやけつくような痛みが走り、源さんは思わずコーラを吐き出した。 「ゲボーッ!!!」 苦し紛れにドンドンと何度も壁を叩いた。 コーラを吐き出すと、次第に喉の痛みは収まったが、声はしわがれてほとんど出なかった。 「どうしたんだ?    大丈夫か!!!」 隣の部屋にいた座長の竹田が部屋に飛び込んできた。 騒ぎを聞きつけて、別の部屋の劇団員達も入ってきたが、何が起きたのか分からず不安な顔を見合わせるばかりだった。 要一だけは姿を現さなかった。 座長の竹田は要一を探しに外へ出たが、要一はとうとうそのまま戻らずゆくへをくらました。 公演中に起きたトラブルは、結局座長の責任になる。 長い公演中には色々なことが起こる。 できるだけ座長のところで問題を解決して、劇団に迷惑をかけないようにするのが座長の務めであり、それができないとそれ相当の責任を問われる。 だから過去にも劇団員同士がトラブった時にも、トラブった劇団員の片方をひとり部屋にして、問題を起こした劇団員と座長の竹田が一緒の部屋にしてトラブルを回避させ、なんとか公演だけには穴を空けないようにしてきた。 しかし、今度ばかりは竹田ひとりの力ではどうにもしようがなかった。 伍作役の源は声が出なくなるし、雷役の要一は問題を起こしたま行方をくらました。 源さんは救急車で病院行きとなった。 竹田は東京の劇団に電話をかけて事情を説明して助けを求めざるを得なかった。 役者が揃わなければ公演は中止になる。 劇団の都合でやめれば、来年からの学校への営業はしにくくなる。 ライバルの劇団に仕事を取られるかもしれないし、学校のほうで鑑賞教室はやめて別の催しものに予算を使うことになるかもしれない。 ここで公演を中止するわけにはいかなかった。 劇団からの返事は、雷役はすぐにも派遣できるが、伍作役は一週間後でなければ都合がつかないというものだった。 急きょC班のミーティングが開かれた。 さいわい源さんはその日の内に退院できたが、声が出るまで一週間はかかるだろうということだった。 源さんの飲んだコーラからは、警察の調べで劇薬扱いの微量の薬品が検出された。 全員が必死で知恵をしぼった結果、伍作役の源の代役が来るまで、伍作を唖(おし)の役に設定して乗りきろうという案が採用された。 座長の佐助が、伍作の身振り手振りを見て伍作の代わりにセリフを言って確認するという設定だった。
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