第1章

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『負けた時は相手に自分の弱点を教えてもらったのだと逆に感謝しろ』 コーチには小さい頃からそう鍛えられていた。 夏騎はもう一度目を閉じた。 勝ち誇った相手の顔を思い出した。 涙さえ出なかった。 そう、まさか負けるとは思わなかったからだ。 「しっかし、腹立つなぁ」 悔しいより腹が立っていた。 負けた相手は今までに数多くいるがこんなに印象に残り何度も思い出す相手は今までに無かった。 目を閉じれば浮かんでくる相手に無性 に腹が立ったのだ。 「夏騎君?」 聞きなれた声がしてまた目を開けると、目の前に杉本春菜の顔があった。 「何?」 「機嫌悪い?」 「いや、別に」 そう言って窓の外に目をやった。
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