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老人は淡々とマスクの男に語った。マスクの男は防寒具を着てはいたが、それでも外と同じ気温になり、そこに何時間も放置されでもしたら。
「とはいえ、中には本気で自殺をしようと考えている者はいない。自殺する気がなくなれば、この部屋の電話を使い中止を申告することができたというのに、それを切ってしまうとは・・・。まあ、おかげで自殺をする覚悟は固まったる感謝する」
「冗談ではない!どうして、部外者の俺が巻き込まれなくてはならない!出せ!今すぐ、ここから!」
マスクの男は声を荒げ、寒さが染み渡り始めた部屋の中で暴れた。ドアを乱暴に叩き、無理矢理にでも開けようとしていたが無駄であった。ドアを叩く虚しい音だけが響くだけだった。
「私の気まぐれさ。家族がいなかったから。一人で死ぬのは寂しいと思っていた。そこに、お前がやってきてくれた。これで、寂しさも紛れる」
「ふざけるな!何か脱出する手立てはあるだろう!」
マスクの男は必死になり、部屋の鍵をかけたリモコンのボタンを押した。これで、閉めたのだから開けるボタンもあるはずだと思い。しかし、それは自殺者用のリモコンである。適当にボタンを押したことによって、部屋に仕掛けてられていた催眠ガスと神経性の毒ガスが噴射された。どちらも、楽に死ねるようにと開発されたモノだ。
「か、身体が・・・」
マスクの男は自前のマスクを脱ぎ捨てた。初めて露わになったその顔は蒼白となっており、口をマスクで覆うも手遅れだった。密室状態に近い部屋では逃げ場などなく、男はガスを吸い倒れた。
「どこの誰だか知らないが、付き合ってくれて、ありがとう」
老人は椅子に揺られ目を細めながら、マスクを脱ぎ捨てた男に礼を言った。そして、残り僅かな生の時間を静寂の中で楽しんだ。
やがて、全ては最初に戻った。
しんしんと雪が降る静かな夜に。
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