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しんしんと雪が降る静かな夜。老人は一人、揺りかご椅子に揺られながら瞑想に耽っていた。
ここは、都会の喧噪とは無縁の山の奥にある屋敷だ。ここで、老人は外の静けさに耳をすませながら、何者にも邪魔をされることなく瞑想することができた。
屋敷だけが世界の時間から切り離されたようだ。いつまでも、この静寂は続くものだと思われた。しかし、それは唐突に途切れる。
瞑想に耽っていた老人は静かに目を開けた。どれぐらいの時が経ったのだろうか。部屋には時計もなく時間など分からない。はめ殺し窓から外を見れば真っ暗なままだ。どうやら、まだ夜らしい。
「そろそろか・・・」
老人は近くの小さなテーブルに置いてあるリモコンに手を伸ばした。
その時だ。大広間から壺が割れる音が聞こえたのは。この静けさの中で、その音は異様に大きく聞こえた。
続けてドアが開く音と、誰かがギシギシと廊下を歩く音が聞こえた。屋敷には老人以外、誰も人はいない。
「泥棒か」
老人は直感した。この静かな夜に不似合いな音を立てる人物など、泥棒以外に考えられなかったから。
「おい」
老人がいる部屋のドアが開き、廊下から毛糸で出来たマスクを被った男が現れた。男の手には包丁が握られていた。
「泥棒ですか?」
「そうだ。正確には今からお前を脅して、金を出させるから強盗ということになるがな」
マスクの男はドスの効いた声で老人に言う。けれど、老人は少しも動じている様子を見せなかった。
「そうか。そうか。こんな時間に、山奥までご苦労なことだな」
「山奥だからこそ、この屋敷を選んだ。この辺りには警察もいないし、街から相当離れている。携帯だって圏外だ。いっておくが、屋敷の電話線は切らせてもらった。つまり、お前は外部に連絡する手段を断たれたということだ」
マスクの男はドアを閉め、老人に包丁を突きつける。ギラリと光る包丁は、切れ味がよさそうで、老人など軽く殺せそうだった。
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