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「念のため聞いておくが、お前は家族がいるのか?万が一、隠れられたりしていたら厄介だ」
「家族か。一生に一度は欲しかった。しかし、私はどうも女性に縁がなかったらしく、結婚はできないまま老人になってしまった。私にあるのは、一生をかけて築き上げてきた財産という、あの世にも持っていけない虚しいモノだけだ。ほら、そこの金庫にあるだろう」
包丁を突きつけられているのにも関わらず、老人は落ち着いた口調でマスクの男が求めているであろう金が入っている金庫を指差した。
確かに、そこには金庫があり、何故かご丁寧に扉が開いていた。マスクの男の目にハッキリと、中に入っている現金や宝石が見えた。
予想以上の収穫にマスクの男は口元をにやつかせた。だが、よくよく考えてみれば、あまりにもおかしい。
「随分と、気前がいいが。あの金庫の中身は本物か?偽物で俺を罠にかけようって魂胆ではないだろうな」
不自然に扉が開いている金庫。如何にも、盗んでください、自由にとってくださいと訴えているようで怪しかった。
「何故、罠にかける必要がある。こんなにも、静かな夜なんだ。私は静かにしていたいんだ。あまり無粋な真似はしないでくれ」
老人はこの静かな夜を満喫したいのか、マスクの男に対し恐れよりも、不快感の方を露わにしていた。そんな老人の様子を見て、本当に罠は無さそうとマスクの男は悟ると、
「本当に、罠を仕掛けている訳ではなさそうだな。だがな、もし、おかしね真似でもしたら、すぐに殺すからな」
「分かった。だったら、そのリモコンを渡してくれないか?」
老人は先程、取ろうとしたリモコンを指差して言う。
「リモコンだと?警報装置じゃないだろうな」
「そんな訳ないだろう。この家には、警報装置の類はない。仮に、それが警報装置だとしても、街からは離れている。それに、表の雪。そう簡単に警察や警備員はこれない。逃げる時間は十分にある」
「・・・それもそうだな。怪しいがいいだろう」
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