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マスクの男は老人を疑いながらも、彼にリモコンを渡した。それが、警報装置だとしても老人が言うように、街から相当離れた場所にある屋敷だ。警察が駆け付けるには時間が掛かりすぎる。
「そうそう。これが必要だったんだ」
老人はリモコンを受け取ると嬉しそうな顔をする。何故、リモコン一つでそんなに嬉しそうにするのか。マスクの男は、おかしな奴だなと思いながらも開いている金庫の方へと向かった。
ガチャリ。
妙な音が聞こえた。どこかの鍵が掛かった音だ。
「おい!今、何をした」
「大したことではない。リモコンのボタンを押して部屋に鍵を掛けただけだ」
「なんだと!」
マスクの男は慌てて、この部屋の唯一のドアへと向かった。ノブを掴み前後に動かしてみても、動く気配がない。まるで、ドアが壁の一部にでもなったかのようだ。
「何の真似だ!俺を、ここに閉じ込めて警察に引き渡すつもりか!」
「そんなことはしないさ。さっき、お前が言っただろう。電話線を切ったと。見ろ、備え付けの電話も使えないから」
マスクの男は部屋に備え付けられていた受話器を取ってみた。少しも反応はない。外と同じように静かなままだ。
「お前は何か大きな勘違いをしているようだ」
「勘違いだと?」
「私の財産は金庫に入っていると言ったが、この屋敷が私のモノとは一言も言っていない」
「お前の屋敷ではない?だったら、誰の屋敷だというのだ」
「会員専用の屋敷さ。何の会員だと思う?自殺志願者の会さ」
老人の言葉を聞くと、マスクの男はゾクリとした寒気を感じた。これは、不気味さから感じた、寒気ではない。本当に部屋が寒くなってきた。ドアの閉まる音に気を取られていたが、作動していたはずの暖房機も止まっていた。
「私は、ここの会員になった。目的はもちろん、自殺する為。この部屋は他の部屋とは違い、寒さを防ぐモノがない。暖房が停止すれば、数分もしない内に外と同じ気温になるだろう」
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