怠惰で不敵な魔導士

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飛鳥は槍を構えた。 今の自分では一撃がやっとだ。 だが一撃が入れば勝てる。 そう自負できる程、この魔法は強力なものだった。 相手(ソラ)もそれを分かっている。 だからこそ彼は身構えたのだと飛鳥は思った。 飛鳥は次の攻防をイメージした。 彼は避けるだろう。 今までと同じギリギリの所で。 だが、纏わせた魔力の電気により範囲が広がったこの槍にはそれは無意味だ。 だからといって素手で防ぐことも、先程の様に触れて逸らすこともないだろう。 そんなことをすれば、感電して気絶するのだから。 「豪雷槍(ごうらいそう)雷突(らいとつ)!」 一瞬のシミュレーションの後、飛鳥は突きを放った。 穂先の刃の電気が増した槍の突き。 まっすぐソラへと向かった。 ソラは動かなかった。 だがそれは、反応出来ないからではない。 槍を殴るために動かなかった。 ソラの左の裏拳が刃の側面に当たった。 その時、槍に纏われた電気が消えた。 一瞬だった。 槍に纏われた不安定な電荷がものの見事に消えた。 「え?」 飛鳥が声を出したのは穂先を殴られ、何にも当たらず横へと進んだ刃がソラを超えた時だった。 ソラは右拳を引いた。 前へ踏み出た。 飛鳥との距離は拳が確実に入るもの。 飛鳥の眼前へと迫ってくる拳。 飛鳥には拳が本来のものから何倍も大きく見えた。 ーーー『やべ..負ける』ーーー 眼前に迫る拳を見て、飛鳥は敗北を悟った。 目を瞑った。 痛みに耐えようとした咄嗟の反射だった。 しかし、痛みも拳が当たる感触も無かった。 おそるおそる目を開けた。 ソラの拳は飛鳥の顔面スレスレの所でピタリと止まっていた。 “ピンッ!” 「イテッ!」 飛鳥の鼻先を、スレスレで止まっていたソラの右手の人差し指か弾いた。 「オレの勝ち」 不敵な笑みと共にソラは呟いた。 「....俺の、負けだ」 飛鳥は少し俯いて呟いた。 勝敗は決した。
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