373人が本棚に入れています
本棚に追加
意識が、重くて自分の力で動かせないほどの体が一気に上に引き上げられる。
まるで、気持ちよく眠っているところを邪魔される感覚だと眠っている彼、高里織夜は思った。
いやだなー。まだ眠っていたいのに。
ふと回らない頭で考える。
だが、そんなことを思ったところでこの浮上を抑えることはできない。
どんどん浮き上がっていく体に抵抗しようとも考えたが、それをすることすら面倒でやはりなされるがまま。
織夜はついにその重たいまぶたを開けた。
「…。」
白い天井。白いカーテン。白い布団。
すべてが白い清潔感あふれるその空間は、一発で病院だと分かった。
そして、極めつけは口元を覆っている酸素マスクである。
眠っている間、呼吸の手助けをしてくれていたそれは今となっては邪魔な存在でしかない。
織夜は、ゆっくりとその酸素マスクを取り外すと、ぼんやりと空中を見つめた。
自分はどうしてここにいるのだろう。
一体何があったのだろう。
記憶が混濁しているせいか自分の今の状態を把握することができない。
ただ一つだけ分かっているのは、現在進行形で空腹であるということだけだった。
「…お腹減った…。」
ふと、右側にある棚のような物を収納できる場所に目を向けた。
そこに置いてあるのは、清潔感あふれるふかふかのタオルと白いシンプルな立てる式のカレンダー。
だが、織夜にとってはそのカレンダーに書かれている内容が信じられなかった。
西暦 2014年
「え…。」
織夜は目を見開いた。
その西暦が書かれている所だけをじーっと見つめているとそのうちボソリと呟いた。
「今って西暦2013年じゃ?まさか一年も…?」
ようやく今のこの事態を理解できたのか、織夜は小さなため息をついてベッドからのそりと起き上がった。
一年ぶりに起き上がるせいか、頭がズキズキと痛む。
しかし、耐えられないこともない。
「よし、行こう。」
織夜は、左腕に埋まっている点滴を引き抜き、ベッドの下のそばにあるスリッパをはいた。
長い間眠っていたため当然足なども動かしていないわけで、織夜の足はベッドの端に下ろしただけでも耐えられずにぷるぷると生まれたての小鹿のように震えている。
筋肉などなくなってしまったかのような白く細い足を見て織夜は困ったように笑った。
最初のコメントを投稿しよう!