551人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
「聞かないの?」
「え?」
「これ」
彼が指しているのが私の手の中のヘッドフォンだと気づいて、「ああ!」と思い出して慌てて耳に当てた。
だけどさっき聞いた声の甘さにドキドキして、大好きなバンドなのに耳に入ってこなかった。
男の子の声を「甘い」と感じたのなんて初めてだった。
さすが高校生は違う。
彼ならばきっとクラスの男子みたいに、私のこと「おい、こけし」なんて呼んだりしない。
掃除をサボって女子に押し付けたりもしない、きっと。
ああ、早く高校生になりたいな。
できればこの制服を着て、青陵学園の素敵な男の子と学校帰りにデートしたい。
さっきのオシャレなカフェになんて入りたい。
理想の高校生活を思い描いて、ホワホワと空想の世界に浸っていると、隣の彼がヘッドフォンを外す気配で、我に返った。
隣からすっと彼が移動したのを視界の端で捉えて、思わずヘッドフォンをしたまま目で追う。
そのまま彼は横に陳列してあるCDアルバムから一枚を手に取ると、レジへと向かってしまった。
手にしたのは今、私が聞いているもの。
私が好きなバンドのアルバム。まだメジャーデビューしたばかりで、誰もが知っているわけでもない。
それなのに彼もこのバンドが好きなんだと思うと、仲間を見つけたみたいで嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!