1.シンデレラ、王子様と出会う

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「聞かないの?」 「え?」 「これ」 彼が指しているのが私の手の中のヘッドフォンだと気づいて、「ああ!」と思い出して慌てて耳に当てた。 だけどさっき聞いた声の甘さにドキドキして、大好きなバンドなのに耳に入ってこなかった。 男の子の声を「甘い」と感じたのなんて初めてだった。 さすが高校生は違う。 彼ならばきっとクラスの男子みたいに、私のこと「おい、こけし」なんて呼んだりしない。 掃除をサボって女子に押し付けたりもしない、きっと。 ああ、早く高校生になりたいな。 できればこの制服を着て、青陵学園の素敵な男の子と学校帰りにデートしたい。 さっきのオシャレなカフェになんて入りたい。 理想の高校生活を思い描いて、ホワホワと空想の世界に浸っていると、隣の彼がヘッドフォンを外す気配で、我に返った。 隣からすっと彼が移動したのを視界の端で捉えて、思わずヘッドフォンをしたまま目で追う。 そのまま彼は横に陳列してあるCDアルバムから一枚を手に取ると、レジへと向かってしまった。 手にしたのは今、私が聞いているもの。 私が好きなバンドのアルバム。まだメジャーデビューしたばかりで、誰もが知っているわけでもない。 それなのに彼もこのバンドが好きなんだと思うと、仲間を見つけたみたいで嬉しかった。
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