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だから私は自分の名前を名乗り、勢いで店員さんからカードを奪った。
何が大丈夫なのか突っ込まれても困るから、返事が来る前に、すばやく。
「じゃ、行ってきます!」
キリッと敬礼をして、店を駆け出した。
早く追いかけないと、見失ってしまう。
そうしたら私は彼の学生証をお店に戻しに来ないといけないし、彼と会う機会が二度と失われてしまう。
せっかくのイケメンのお兄さんっ!
もう一回話したい!!
陸上部に入ってる私は全力ダッシュ。
同クラ男子が名付けた『こけしダッシュ』で、人込みを縫うように走った。
エスカレーターの下りに乗っていく青緑のブレザーを見つけて、心の中でガッツポーズをする。
本当はエスカレーターを駆け下りて捕まえたかったけれど、駅じゃないエスカレーターは片側が空いているわけでもなく、私はその場で地団駄を踏む思いでエスカレーターに乗っていた。
下に着くのを待っている間に手元のカードを確認する。
これは個人情報を盗むんじゃない。確認だよ、あくまで確認。
誰にするでもなくそんな言い訳を心の中でして、カードに書かれている名前を見つめた。
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