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言うだけ言っといて途中で、いかに自分が酷いことを言っているか気づいたが、そんなことは関係ない。
「エンゲルベルト、いや侍従長、とりあえず彼を下げてくれない?」
彼はそういうと跪いたままの新教育係を睨んだ。
その時、急に彼は立ち上がる。
「そんな卑屈な考えの持ち主ですから、諸先輩方は匙を投げたわけですね。しょうがないかもしれませんね。」
「き、君は何を言って…」
先程まで恭しかった男が急に態度を変えた。
「失礼ながら、あなたは小さい頃から蔑まれることも多かったであろうと推測します。ですから、卑屈になるのも仕方がない。だからこそそういった発言が人の信用を無くすこともご存知のはずですよね。」
スキアーは何も言えない。
「しかし、私はそんな貴方だとしても少しばかり尊敬しています。」
「尊敬?この俺を…?はっ、笑わせないでくれよ。」
スキアーはどうしたらいいかわからなくなっていた。この男の狙いもわからない、そもそも何を言っているのかわからない。
「皮肉を言うつもりはありませんが、私は貴方のその懐疑心を尊敬しています。高貴なご身分の方は疑うことを知りません。貴方はそれを知っている。」
だからと言って
「君が俺に仕える理由にはならないじゃないか。年もそんなに変わらない君なんかが、僕の教育係なんだぞ?」
アランは優しく微笑む。
「私も貴方と同じように発展途上です。ですから」
次の言葉がスキアーの心を突き動かす。
「共に成長していきましょう。貴方は貴方のままでいきましょう。貴方の成長は私の成長であり、私の成長は貴方の成長です。」
スキアーの今までの教育係は、スキアーを立派な人にしてみせる、ということを言っていた。しかし、アランは違った。アランはスキアーを認めた上で共に成長することを言ってきたのだ。
「アラン、さっきは悪かった。俺の教育係になってくれないか。」
アランは跪く。
「これから私は貴方の剣となり、盾となり、そして辞書になります。貴方にお仕え致しますことを、お許しいただけますか?」
「辞書か…。変な表現をするんだね。うん、これからもよろしく。」
冴えない第三王子と若き副侍従長との関係はここから結ばれた。新たな物語が始まる。
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