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お母さんがその作業を行っているのを、アイリスは見たことがあった。その鱗をとることで、麝闘は耳をふさぐことができなくなり、麝闘笛の音で操れるようになるのだとお母さんは教えてくれた。戦士たちは、笛を使い、麝闘の背に股がると、敵の笛で操られぬよう、麝闘の耳に、麝闘の鱗を加工して作った覆いを嵌めるのだという。
ぼんやりと指で笛をもてあそび、麝闘を見ていたお母さんの横顔は、なぜか、とても暗く、そして、哀しげだった。
ーーこれから成長して、十五歳ぐらいの一人前の娘になってもまだ、おまえが麝闘に触れてみたいと思うならば、その時考えましょう。
その時のお母さんの声があまりに虚ろに思えて、アイリスは気をのまれてしまって、何も言えなかった。でも、その十五歳になるにはあと五年も待たなければならない。そんなに長いこと、どうやったら待てるだろう? 光を弾き、七色に輝く鱗に触れたらどんな感じなのか、毎日そればかり考えているのに。
そう言うと、サリーやセバは、アイリスは変だという。彼女たちは麝闘が怖いらしい。そばによるのさえ、嫌だと言う。麝闘は確かに怖い生き物なのだから、アイリスもその気持ちが分からぬわけではない。
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