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「………ナンデモない」
首を傾げた私に先生は頭をポンポン、して前を向いた。
………あ。
いつの間にか消えていたさっきまでのモヤモヤ。
サラリと空気が変わっていた。
先生の表情から探ろうとするけれど、何も見つからなくて。
きっと………私はずっと、先生にはかなわないんだと思う。
私が思っているよりずっと、大きな人。
うまく表現できない甘酸っぱい気持ちで先生の横顔を見つめる。
その時、カーステレオから聞き覚えのある曲が流れてきた。
「あ……『wait for me』……」
「ヘェ、知ってんだ。シブいね」
「はい……」
切ない歌声と歌詞に、忘れたくても忘れられない記憶が蘇って胸がヒリヒリする。
「なんか思い入れあるノ?」
「ーーーちょっとだけ……」
「フーン……」
歯切れの悪い私に、先生はそれ以上何も聞かなかった。
小さく歌を口ずさみながら、何でもないように振る舞ってくれる。
ーーー本当に、嫌になるくらい私は子供だ。
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