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「お~ま~え~はぁっ!!」
「ヒィィィィィ!!」
先生の地を這うような低音にびくぅーっと肩があがる。
「よくこんなんでうちの高校合格できたなあ!?オイッ!!」
「こっ、これはたまたま計算ミスで………」
「やかましいっ!九九が違うのはミスと言わない!!
小学生からやり直せ!」
テーブルをバシバシ叩きながら、先生の怒りを炸裂させているのは、
私ーーー
ではなく、柴田君だった。
「なんで俺がこんな所に………」
「こんな所で悪かったな、少年」
「ととと、とんでもございませんっ」
今度は嶋本さんにツーンと言い放たれ、文字通り八方塞がりのようだ。
「むしろ、お前呼んで正解だったわ。
羽村より重傷だ」
はー、と肩から息を吐き、額を支えながら肘をつく先生。
「そうだな、九九だもんな、少年」
ビール片手にうははは、と完全に外野として楽しんでいる嶋本さんとは対照的だった。
三人の様子を伺っていると、顔を上げた先生と目が合う。
「………羽村は?どこまで進んだ?」
「あ、えっとここの問題で………」
「あぁ、molね。
これはまず、定義に照らし合わせて………」
テキストをペン先で差しながら説明してくれる向かい合わせの先生を盗み見る。
伏し目がちになって、すっと綺麗な瞳の形が一段と際だっていて、思わず見とれる。
「………コラ、聞いてますカ」
つ、と顔を上げられて至近距離でばっちり目が合う。
どっと跳ね上がる心臓に負けて、慌てて視線をテキストに下げた。
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