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まるで私の気持ちが分かるかのように、そう言って玄関へと歩いて行った。
バタンーーーー。
重たい金属音を立ててドアが閉まるのを確認して、柴田君が床に仰向けに倒れ込んだ。
「あ”ーーー」
「だ、大丈夫?」
目を閉じて完全にノックアウトされている柴田君は、無言で首をフルフルと左右に振った。
「ひひひ、鬼の居ぬ間のなんとやらだ。
今のうちに伸びとけー」
ソファーにゆるく座っていた嶋本さんが、楽しそうにビールの缶を口に運ぶ。
「郁ちゃんは?疲れてない?」
「私は全然……。
ていうか、すみません。嶋本さんお休みだったのに……」
「ああ、いーよー別に何か予定あったわけじゃないしね。
ま、びっくりはしたけど」
そう。
先生が、勉強場所として連れてきてくれたのは、嶋本さんの暮らすワンルームの部屋だった。
先生も一人暮らしって聞いていたから、ひょっとして……って淡く期待していたけど、今となればホッとしたのも事実。
先生の部屋だったら多分……。
いや絶対集中出来なかったし、帰ってからも何度も何度も思い出して悶絶する、変態になりそうだったから。
ーーーそして、先生からお呼び出しを喰らった柴田君が、間髪入れずに仲間入りした。
ふ、とテーブルの上の空の灰皿が目に留まる。
「嶋本さんも、タバコ吸われるんですね」
「え、俺?俺は吸わないよ。
一応料理人だから、味覚が変わるものや食材に匂いが移るものは避けてるんだ」
「じゃあ、これ………」
「来客用。
ま、もっぱら恭一用だね」
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