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お盆を過ぎたあたりから、少しだけ夕方の風が匂いを変えてきた。
汗が嫌で、早めに入ったお風呂上がり。
自分の部屋で窓を開けてそう思った。
「♪~♪~♪」
机の上の携帯が先生からの着信を告げる。
「もしもしっ!」
『ドーモ』
「どーも、です」
頬の筋肉が緩むのが隠せない。
『今ダイジョウブ?』
「はい、全然っ!」
自分でも音色があがってしまうのが分かる。
『ゴキゲンですネ。
あ、やっと課題終わったンダ?』
「うっ……」
先生の声に浮ついた気持ちが固まる。
それは、つい数日前にも交わした会話で。
“先生”として本気でお説教されていた。
『ハァ………知らナイよ、もーあっという間に終わりダネ、夏休み』
「ち、ちゃんと仕上げます」
『当たり前デス』
クッ、と息を詰めて笑う声が鼓膜を揺さぶる。
あの日以来ーーー。
あの日以来、先生とは会えていない。
夏休みと言えども、バスケ部の顧問である先生は、練習や大会の毎日で。
その後にはナントカ研修会があったりと、多忙なようだった。
「……先生たちって、夏休みのんびりしてるのかと思ってた」
思わず考えていたことが口をついて出た。
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