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長いと思っていた夏休みも、あと数日となっていた。
まだ残暑が厳しい中、淡々と読み上げられるお経に耳を傾けているつもりでも、暗号のようなその音から意味を取り出せない。
ふと視線をあげると、遺影の中でとびっきりの笑顔を浮かべていて。
まだどこかにいるような、ここだけ時が止まってしまっているような。
胸にある焼石が、ジンジンと周りを焦がしていく。
全ての法要が終わって帰る支度をしていたら。
「郁ちゃん」
おばさんに声をかけられて視線を交わす。
小さく頭を下げる私の両手を握りしめて微笑んでくれた。
「今日は本当にありがとう。
来てくれるとは思ってなかったら……」
おばさん……また痩せたな……。
涙を瞳いっぱいに溜めているその姿に首を振る。
「郁ちゃん、少し時間ある?
渡したいものがあるの」
「……はい」
「私、お見送りだけしてくるからちょっと待っててね」
こくりと頷くと、おばさんは玄関へと向かった。
とたんにしん、とした部屋の中。
もう一度遺影を見つめる。
「希(のぞみ)ちゃん……もう1年経ったよ」
私の声だけが、静かに響いた。
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