第1章

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* まっすぐ家に帰る気にならず、むんっ、と蒸すような照り返しを受けながら街中を歩く。 希ちゃんの家を出るとき、最後にかけられた言葉がずっと耳から離れない。 「郁ちゃん、もう、新体操やらないの?」 先に始めていたすみれちゃんにくっついて、3才から始めた新体操。 クラブにいた2つ上の希ちゃんは人見知りで泣くばかりの私とても優しくしてくれて。 初めてできたお友達だった。 常に私の一歩も二歩も先を行く希ちゃんが目標だったし、あこがれで。 何よりあの、周りを幸せな気分にしてくれる人柄と笑顔が大好きだった。 高校進学を期に辞める人も多い中、希ちゃんは新体操を続けた。 「辞める理由の方が見つからないよね」 そう笑う希ちゃんと、毎晩遅くまで一緒に練習をした。 高一でインターハイ3位という好成績を残し、将来を有望されていた希ちゃん。 だけど去年の9月の大会。 それまでどんな怪我や病気をしても、戦わずして諦めることをしなかった希ちゃんが、初めて会場に姿を現さなかった。 いつもは欠かさず一緒に会場入りしていたおばさんは、たまたまこの日に限って、大切な予定があったらしく。 誰も希ちゃんの足取りが分からなかった。
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