第1章

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突然後ろから声かけられて、ビクッと全身が跳ねる。 恐る恐る振り返ると、自転車にまたがった柴田君がニカッと笑っていた。 「どーした、ぼーっとして」 「あぁ、うん」   「なんで制服?なんか元気ないし」 「……今日、法事だったから……」 「ふぅーん」 思わず俯く私に、柴田君はそれ以上聞いてはこなかった。 「な、羽村!大森公園に来る移動販売車、知ってる? すっげー旨いらしいんだけど行かない? 俺腹減ってんだよねぇ」 「あ、待って」 私の返事を待たずに、自転車にまたがったまま、地面を蹴飛ばして先を行く。 「なんか柴田君て、いつも自転車だよね」 「そーかぁー?高校生なんて、そんなもんだろ」 「どこにでも現れるし」 少し後ろを歩く私を振り返りながら、柴田君が得意げに胸を張る。 「俺、フットワーク軽いからねぇ!家にいてもかーちゃん勉強、勉強うるさいし。 この前なんて、ダチ3人と海まで行ってきたぞ」 「うそっ!」 「ホント!泳いで帰ってきた。遊びすぎて、帰り地獄だったけどな」 大きな口を開けて豪快に笑う柴田君のペースに乗せられて、いつの間にか霧から抜け出していた。
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