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「あーあ。まだあの本読み終わってなかったのになぁ」
ふざけたことをぬかす女と、
「ガァ!」
鉄臭い臭いを撒き散らす、低級の赤鬼。
「『本読み終わってなかったのになぁ』じゃないだろ!?」
咄嗟にニンゲンの女と赤鬼の間に滑り込んで鬼の貧相な槍を難なく受け止める。
低級程度の槍を受けるなんて造作もないが、距離が少し遠くて間に合うかどうか分からなかったが間に合って良かった。
知らないニンゲンとは言え、目の前で死なれるのは後味が悪い。
目の前の低級妖怪を気にしつつ、視線だけを後ろの女に向けると女は細い目を少し見開いていた。
死ぬかもしれなかった女にしては間抜けな顔してるなと、心底そう思った。
なのに、女の顔を見た途端に妙に胸が騒いだ。
……言っとくが一目ぼれとかそんな甘酸っぱいようなものではない。
緊張にも、恐怖にも近いものをその女から感じた。
……何ニンゲンの女を恐れているのか。
馬鹿馬鹿しい。
「すいません、ちょっといいですか」
「見て分からないか。今取り込み中だ」
考え込んでいた時に声を掛けられたからか、随分ドスの効いた声でかえしてしまった。
確かニンゲンの女って、キッツイこと言われたらすぐ挫けるから優しくしなさいとかなんとか那音が言ってたような。
ま、言ってしまったものは仕方ないか。
女も別に俺に対して動揺していないようだし、今は取り込み中。
正直、黙って大人しくしてほしい。
「いや、それは分かってるんですけど」
俺が怒鳴っても尚、言葉を濁す女に苛立ちが募る。
ついつい、また怒鳴ってしまった。
「解ってるなら黙ってろ。死んでもいいなら別だけどな」
「嫌です絶対死にたくないです。私が言いたいのはですね……帰ってもいいですか?」
「……は?」
一瞬だけ、時間が止まった気がした。
今俺は随分と間抜けな顔をしているのだろう。
この女は何て言った?
いや、こんな状況なら誰もがチラッとは思うかもしれないが口に出す奴がいるか普通。
いない筈だろ普通は。
一言、その女に何か言いたくて鬼との鍔迫り合いを棍に力を入れて払いのける。
赤鬼との距離が充分に離れたことを確認してから俺は女のほうに顔を向けた。
「ふざけてるのか。お前……っ! まさか」
この女は。
胸騒ぎが激しくなる。
この気配は、巫女の子孫なんだろうか。
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